働く世代の健康増進への具体的アプローチ
平成23年度 第2回東京都生涯スポーツ担当者研修会
*平成23年12月3日14時~16時
*東京都庁 都議会議事堂「都民ホール」
*東海大学 体育学部 生涯スポーツ学科 専任講師 久保田 晃生 氏
『働く世代の健康増進への具体的アプローチ~身体活動を増やすためのきっかけづくり~』
・・・生涯スポーツが目標だが、そこに至らない人々が日常的に動く為のきっかけづくり
1.なぜ、身体活動を増やす必要があるのか?
・働き盛りの主要な死因・・・自殺・事故・ガン・心疾患・脳血管疾患など
自殺・・・スポーツをすることである程度の予防は出来るのでは?
ガン・・・身体活動が効果あり
心疾患・脳血管疾患・・・運動・スポーツで改善出来る
・都民の医療費は年々右肩上がりに高くなってきている
『元気で長生きすることが重要』→そのために身体活動・運動が必要
2.身体活動とは何か?
・ストレッチ・速歩・ジョギング・水泳などの一般に言われる運動だけではなく
オフィスワーク・炊事・掃除・洗濯・子どもと遊ぶ・階段昇降・介護などの
生活活動も含めて、動かすことを身体活動という
・生活活動を高めて習慣化し、運動につなげる事が理想
・3メッツ以上の身体活動をしていると、生活習慣病などの死因になるものを予防出来る
(ちなみに座っている状態が1メッツ)
3.身体活動・運動の効果
・疾病又は死因などについて身体活動・運動の効果があるというデータが最近出てきた
→運動すれば、死亡率を抑制することができる
『身体活動・運動は健康作りに有効である』
4.都民の身体活動・運動の状況
・1回30分以上週2日以上の運動を1年間以上続けている人は
男性16.6%、女性17.8%(平成21年)
・1日の歩数(身体活動の基準として)
男性7828歩、女性7341歩(平成21年)
・歩数計を渡すと、歩くようになる傾向がある
・ウォーキングの効果・・・血圧を下げる・肥満防止など
・都民も身体活動・運動を増やすことが必要
→気合いや元気だけでは行動変容(人の行動が変わること)には至らない
『行動科学を活用して効率的友好的に行動変容させる 』・・・スポーツ推進委員の役目
5.身体活動・運動を増やすための行動科学的理論
1)健康信念モデル
罹患性・重大性 「このままでは重大な病気になりますよ」
↓ 医者から病気を申告される ↓
脅威 それは大変だ!
↓ 行動のきっかけ ↓
障害or有益性 「運動すれば大丈夫です」
↓ ↓
行動変容 それなら運動しよう!!
2)自己効力感(自信)
ある人 ←←← 継続して運動出来るようになる
↓ ↑ 効力期待(自己効力感)
行動 悪い結果をもたらす行動 これならできるという自信
↓ ↓ ↑ 効力期待(自己効力感)
結果 悪い結果 →→→ 運動すれば良い結果になる
自己効力感は何から生まれるか?
・言語的説得・・・人から褒められる
・代理的経験・・・他人の成功経験を得る(同じような境遇の成功例が効果ある)
・自己の成功体験・・・過去に同じような行動を上手く出来た経験
・生理的・情動的状態・・・行動による生理的・情動的変化
例えば運動したから筋肉痛になることを予告し対処法・予防法を教えてあげる
3)変化のステージモデル
行動に移っていない段階 前熟考期
↓意識の高揚・感情的経験・環境の再評価
↓ 熟考期
↓自己の再評価
準備期
行動に移った段階 ↓コミットメント
↓ 実行期
↓行動置換・援助関係の利用・強化マネジメント・刺激の統制
維持期
↓
行動変容
4)計画的行動理論
行動への態度「行動した結果への価値」
↓ ↑ ➘
主管的規範「重要他者の考え方」 → 行動意志(やる気)→ 行動変容
↓ ↑ ↳配偶者・子ども等 ➚ ➚
行動コントロール「行動の難易度の考え方」→ → → → → ➚
5)ストレスとコーピング
一次評価「内容の評価」
➚ 自己判断 ➘ 行動変容
ストレッサー コーピング「対処と努力」
➘ ➚ ↓
二次評価「処理の評価」 適応
どうやって処理するか
6)ソーシャルサポート →行動変容
・情緒的サポート・・・狭義の情緒的サポート(共感・愛情・信頼・尊厳など)
評価的サポート(他者との評価・自己評価など)
・集団的サポート・・・情報的サポート(アドバイスや情報提供など)
道具的サポート(形のあるサポートなど)
7)コントロール所在
・内的コントロール所在・・・健康状態は自分の行動(努力)によってきまると考える傾向
・外的コントロール所在・・・健康状態は自分以外の協力他者(医療・保健スタッフなど)や、
運によってきまると考える傾向 → 変容しにくい
6.行動変容が起こるためには?
・有益性、行動への態度(そうすることが本当に良いことだと思う)
・・・どれくらい良いのか?運動療法の意義を伝える、又は良い点を示す
・障害(それを行なう上での妨げがない)
・・・妨げになるものの代替案を提案(運動を楽しいと感じる工夫をする)
・ストレスとコーピング(ストレスと上手く付き合っている)
・・・ストレスの対処にサポート出来る人がいないか検討
ストレスに対して身体を動かすことで対処するように提案
場所を変えることでストレスの刺激をコントロールする
・自己効力感、行動コントロール(それを上手くやれる自信がある)
・・・少しの時間でも効果あり・小分けしても効果あり等、自分にもできる方法を検討
・主観的規範(家族や友人からのサポートがある)
・・・サポートが得られることを目標とする
家族・友人・その他専門の人でも・・・
・脅威(健康面でこのままではまずいと思う)
・・・「このままではまずい」と思うことが行動変容にプラスの要因
・内的コントロール所在(健康は自分の努力で決まると思う)
・・・健康は自分の行動で左右される事を理解すると行動変容が起こりやすい
→そして行動を起こすステージへ・・・
・・・「そろそろやらなきゃ」→行動に移る前の技法を活用
7.どうやって身体活動をすすめるか?
・運動療法へのやる気とアドヒアランスを高める
アドヒアランス・・・患者がいったん了承した治療法をほとんど監視ナシで継続すること
一般的には運動習慣などに用いる
例 時間がないという理由=時間を取って運動する自信がない
→ ・同じ境遇で運動を頑張って続けている人の例や、話を聞くチャンスを設ける
・少しずつ実践して達成感を得られるように工夫する(徐々に増やす)
・少しの変化を褒める→自己効力感を高める(男性はデータを示すと効果的)
・運動実践後の気持ちの変化を感じてもらう
8.その他活用できる行動変容技法
*行動に刺激を与える・・・準備期→実行期(行動に移った段階)
・コミットメント(行動変容することを選び、それを表明する)
・行動契約・・・「行動契約宣言」実行することのサインをもらう
→具体的な内容・本人のサイン・サポートする人のサイン
・親子でも活用できる(親に代わってもらうために子どもにアプローチ)
・なるべく簡単にテックする仕組みが重要
・行動目標の設定・・・70%位実現できそうな目標設定がポイント
・目標設定は細かく具体的に定める(いつ・何処で・何を)
・行動置換・・・問題行動の代わりになる健康的な考え方や行動を取り入れてもらう
・どうしたらいいか事前に考えておく
・援助関係の利用・・・ソーシャルサポートを求める
・ソーシャルサポートを利用した活用した取り組みを紹介する
・一人でなく2~3人で運動の目標を立ててできたらカレンダーに○を付ける
・一人よりグループでやる方が効果が高い
・強化マネジメント・・・自分自身に褒美を与えることや、他人から褒美をもらうこと
・体重○キロ減少などの事象にではなく、運動を継続出来たという行動が対象
・刺激の統制・・・問題行動のきっかけとなる刺激を避け、
行動を取るきっかけになる刺激を増やす
・目標を紙に書いて目立つ所に貼る
・玄関にスポーツシューズを出しておく(すぐにはけるように)
・夕食後10分後には歯磨きをするように仕向ける
*考えに対して働きかける・・・前熟考期・熟考期→準備期(行動に移っていない段階)
・意識の高揚・・・健康問題に関する情報提供、それを理解し、行動変容の関心を持ってもらう
・感情的経験・・・行動変容しないことでの健康の脅威に対して感情的な面から経験させる
・することのメリット・しないことのデメリットの資料提供
・環境の再評価・・・行動変容をしないこと、することでの周囲の環境に与える影響を再評価
・事故の再評価・・・行動変容しないこと、することでの自分自身の再評価
・社会的解放・・・健康的な生活を送ることに影響する社会環境についての情報を提供
まとめ
*健康の維持・増進には運動を含めた身体活動を高めることが必要
*人の行動を変えるのに、行動科学は有効な考え方の一つ
*行動科学を用いることで行動の変容と維持に筋道が立てられる
*複数のスタッフで取り組む場合共通の言葉を持てる
『生涯スポーツ社会へとつなげていく為にも
先ずは身体を動かしてもらう「きっかけ」づくりが重要』